前回、私はアメリカが20世紀の勝利者になり得た理由は、クリスチャンが人を大切にしたからだという話をしました。共産主義やファシズムが人を役に立つ立たないで判断し、役に立たない人間を処分、殺害する一方、クリスチャンが大多数を占めるアメリカでは人を大切に扱ったのです。共産主義やファシズムと同じように、資本主義もまた人を役に立つ立たないで判断します。そして第2次大戦後、アメリカではキリスト教が影響力を失い、資本主義がアメリカを支配するようになりました。そしてそれが原因で、アメリカは今まさに崩壊する寸前です。ではこの背景にいったい何があったのでしょう? 今回はその点について解説します。
現アメリカ大統領のドナルド・トランプにとって、最も重要な支持層は福音派クリスチャンだと言われています。トランプ氏が獲得した7400万票のうち約2500~3000万票、つまりトランプ票の3~4割が福音派クリスチャンによるものでした。福音派クリスチャンはアメリカ人口の2割を占め、その結束力と投票率の高さから見てアメリカ最大級の政治派閥です。アメリカが世界の支配者である現在、この福音派クリスチャンがどういう人たちかを知ることは極めて重要であるのですが、少なくとも日本において、福音派クリスチャンがどういう人たちかを説明できる人はほとんどいません。多少ともアメリカを知る人なら、福音派は聖書の教えを忠実に信じる原理主義的クリスチャンというイメージがあるかもしれません。しかしそのイメージは半世紀以上前のものです。第2次大戦後、アメリカのキリスト教界に大きな波が訪れました。その波はとてつもなく強力で、アメリカのキリスト教をもはやキリスト教とは呼べないレベルに変化させたのです。
福音派クリスチャンがどういう人たちかについては、英語の「テレビ伝道師」という言葉を調べることで大ざっぱに理解できます。英語で「テレビ伝道師」は「Televangelist テレバンジェリスト」です。福音派は 英語で「Evangelist エバンジェリスト」です。つまり英語の「テレビ伝道師」という言葉は「テレビ」と「福音派」を組み合わせた言葉です。wikiページにはこうあります。
「テレビ伝道」とは、ラジオやテレビなどのメディアプラットフォームを利用して、宗教的なメッセージ、特にキリスト教、とりわけ福音派キリスト教を宣伝することである。
テレビ伝道を聞く人たちが福音派ということではありません。しかしテレビが登場してからYoutubeが登場するまでの期間、テレビの影響力は圧倒的でした。トランプ大統領を個人的に指導するポーラ・ホワイト牧師もテレビ伝道師です。トランプ氏は彼女をテレビで見て、個人的に接触しました。テレビ伝道の分かりやすい例として、1987年の映画『レポマン』のワンシーンを紹介します。
ラリー牧師:主が私に直接告げられました。主と共に歩むことを喜びましょう、アーメン。主はラリー、あなたとあなたの信徒は約束の地を求めるだろうと言われました。ただし、まず海外の無神論的共産主義と国内の自由主義的ヒューマニズムという二つの悪を打ち砕かなければなりません。ああ、喜びとハレルヤ、それらを打ち砕きましょう。さあ、友よ。時折、視聴者から手紙が届きます。「ラリー牧師がテレビに出るのは、あなたのお金が欲しいからでしょう」と。そして、その通りです!私はあなたのお金が欲しいのです。なぜなら、神があなたのお金を望んでいるからです。ですから、家を抵当に入れ、車を売って、私にお金を送ってください。車は必要ありません。
『レポマン』は40年前の映画ですが、基本的なメッセージは今も大して変わっていません。「金を送れ」「共産主義は敵」「リベラル派は敵」がテレビ伝道のメッセージです。ではポーラ・ホワイト牧師は何と言っているでしょう。やはり「金を出せ」です。
「10万ドル集めたい。10万ドル欲しい。1万ドル寄付できる人が10人いる。1000ドル寄付できる人が100人いる。ポーラ・ホワイト・ミニストリー宛ての小切手を用意してください。今見ている人の中には、「お金がない」と言う人もいるでしょう。それなら100ドル寄付してください。犠牲の種を持ってきてください。これは私のためではなく、子供たちのためのものです。あなたが従順でなければ、人は死んでしまいます。これは、吟遊詩人、楽器、戦士、そして神のために力強く働く子供たちのためのものです。これは、世の中を変える子供たちのためのものです。皆さんの祝福をください。さあ皆さんに言います、犠牲の種を持ってきてください。アリーナに入ってください、アリーナに入ってください。立ち上がってください、封筒はまだ3つしかありません。私は動きませんよ。あなたが従順になるまで、私は手を置くつもりはありません。席を立って、さあ、種を蒔きましょう。種を蒔きましょう。種を蒔きましょう。 私はあなたの考え方を打破した。何かを打ち破りたい。あなたには突破口が必要です。あなたには物が必要です。建物が必要です。ウェディングドレスが必要です。あなたには必要なものがありますが、あなたはいつも経済的に苦労しています。それは神の国ではありません。神の国は、すべての願い、すべての欲求ではありません。しかしそれはビジョンのための備えです。神の国、キリストには欠乏はないのです。彼はその富と栄光に従って、あなたのすべての必要を満たしてくださいます。神の国、今この瞬間にも、1000ドルを寄付できる人が30人います」
ここで様々な疑問が生じます。一般的に福音派クリスチャンは教育程度の低い低所得層と見られていますが、どうして福音派の牧師たちは貧しい信者に「お金を送れ」と圧力をかけるのでしょう。そして信者たちはなぜ牧師の言いなりになってお金を振り込むのでしょう。こちらのページを見ると(→40 True Generosity Stories)、生活に苦しい中、無理をして献金する話がいくつもあります。日本でもアメリカでも振り込め詐欺は大きな問題です。日本での被害額は年間1,400億円ほど、アメリカでも1000億円ほどです。そして被害者の大半は抵抗力の弱い高齢者です。高齢者は人から圧力をかけられると簡単に言いなりになってしまうのです。福音派教会のやっていることは、本当に宗教なのでしょうか。宗教とは名ばかりで、実は貧しい信者を騙す振り込め詐欺なのではないでしょうか。これらの疑問に対する答えは「繁栄の福音」と呼ばれる教義を調べることで得られます。wikiページには次のように書かれています。
繁栄神学(繁栄の福音、成功の福音とも呼ばれる)は、米国を起源とするカリスマ派プロテスタントの一部に見られる信仰で、経済的な祝福と肉体的な幸福は常に神の意志であり、信仰、聖書に対する肯定的な告白、慈善活動や宗教活動への寄付によって物質的な富が増加するというものである。物質的、特に経済的な成功は神の恵みや恩恵、祝福の証拠とみなされ、その反対は裁きの証拠とみなされる。
ヒンドゥー教には富をもたらす神がいます。日本の神道にもいます。それらの宗教では、信者たちは繁栄を願って神に祈ります。しかし科学的に考えれば神に祈って物質が増えたり、お金が増えることはありません。物質的を増やすために必要なことは、実際に手を動かして物質を増やすことだけであり、お金を増やすために必要なことは、お金について学ぶことだけです。経済的な成功を願って神に祈ることは、科学的に考えれば大いなる時間の無駄なのです。しかし哲学の教育がなく、貧しく、しかし信仰心のある人たちはそのことを知りません。そして「あなたが貧しいのは信仰が足りないからだ」と言われれば、それを真に受けてしまいます。だから福音派の信者たちは、牧師の「金を出せ」圧力に抵抗できないのです。キリストは「金持ちが天国に入るのは、らくだが針の穴を通るより難しい」と言って富への執着を否定しました。また、「貧しきものは幸いである。天国は彼らのものだからだ」とも言って貧しさを肯定しました。このキリストの教えは宗教的な正しさとは別に、迷信を否定することにもつながりました。そしてキリストを信じた西洋人は繁栄のために神に祈るような迷信で時間を無駄にすることなく、その時間とエネルギーを哲学と科学の発達に振り向けました。そして哲学と科学の発達が現実の経済的な繁栄につながり、西洋文明は他の文明よりも高度な文明を築くことができたのです。逆説的な話ですが、現実に富を実現する方法は富を願うことではなく、富を否定する姿勢でした。繁栄福音の牧師たちはキリスト教を自称します。しかし繁栄福音はキリスト教ではありません。キリスト教が登場する以前の原始的な民間信仰です。そしてキリスト教ではないのにキリスト教を名乗り、非科学的な嘘を教えている点で詐欺です。繁栄神学の牧師は「信仰は自由だ」と言うかもしれません。しかしその自由主義はキリスト教という、他の宗教と比較して理性的な宗教をベースとして登場した考え方です。宗教に名を借りた振り込め詐欺にまで自由を与える必要はないでしょう。信仰の自由という考え方は、改めて見直す必要があります。
繁栄の福音は厳密な定義がないために統計を取りづらいところがありますが、2023年の調査によるとアメリカのクリスチャンの76%が繫栄の福音を信じています。TIME誌の世論調査によると、61%が神は人々が繁栄することを望んでいると信じていました。もはやアメリカのキリスト教は原始的な民間宗教に取って代わったといって良いでしょう。繁栄の福音は第2次大戦後に登場した考え方ですが、この繫栄福音によって戦後のアメリカからキリスト教は一掃され、資本主義がアメリカを支配するようになったのです。
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